純丘曜彰教授博士:生活の哲学 Prof.Dr. Sumioka's Philosophy

大阪芸術大学芸術学部哲学教授の純丘曜彰博士が日常の生活の中にある身近な哲学について平易に語ります。

2016年04月

/すべては就職のため。企業に評価されそうな科目を取って、縁故ができそうな課外活動をして、四年間という時間、高額の学費と生活費を無駄にしないように。大学の自由は、むしろ、自己責任で、自分の将来の夢と生活に向けて最善の選択をしなければならない、という義務だ。/


 大学に何しに行くの? 学問を究めるため、なんていうのは変わり者。ふつうは、卒業後に就職して、喰いっぱぐれないように、でしょ。高い学費も、生活費の仕送りも、すべて、そのための先行投資でしょ。


 大学になると、自分で講義を選択する。で、なんで最初から楽勝科目ばっか狙ってるのよ。そりゃ、もちろん単位を落としてしまったんじゃ話にならない。でも、いくら単位を取っても、卒業しただけ、っていうんじゃ、どうしようもないんじゃない? 大学の成績表って、企業に行くんだぜ。それも、就活が3年の終わりからとなると、まだ3年の成績は出揃っていないから、むしろ1,2年の一般教養の成績こそが問われる。そこで、そんな妙な科目ばかり取っていて、それで企業が君を取ってくれるか? それじゃ、喰いっぱぐれるよ。


 なんかよくわからない新書みたいなカタカナ名前の講義ばっかり取って、それが、優、だったって、なんだかなぁ、と思われるだけ。たとえば、同じ一般教養でも、「リクレーション入門」と「国際経済学概論」だったら、どうよ? リクレーションなんて、わざわざ大学で高い学費払って習うことか? というのが、企業の反応。実際になにをやるかはともかく、どうせなら、昔からあるような、硬そうな講義、漢字ばかりが並んでるようなやつの方が、成績表も見栄えがいい。


 それから、社会活動家とか、政治家になるのならともかく、そうでないなら、正直なところ、ややこしそうなの、ばかりだと、ふつうの企業からは敬遠されると思う。たとえば、同じ漢字ばかりでも「人間権利論」や「組合闘争史」みたいなのだらけだと、うわぁ、すごいですね、ということになる。同様に、右でも、左でも、テレビで吠えているようなバリバリの攻撃的活動家教授に関わったりすると、別に本人はそんなつもりが無かったとしても、世間ではその一派と見なされ、就職で苦労する。


 部活やサークルも就職前提で考えるべきだ。趣味は趣味。自分がいくら熱心にまともな活動をしていたとしても、趣味のサークルなど、企業の印象は概して悪い。スポーツ愛好会なんてどこも、スーフリ同然のちゃらいヤリサーとしか思われていない。まして、パーティの箱屋稼業でカネ集めしている国際ボランティアサークルみたいなのになると、いよいよ、うさんくさい。かといって、オタクだ、コスプレだ、なんていうのも、本人たちが思っているほど、また、マスコミが持ち上げるほど、企業側も好印象などということは絶対にない。意識低い系の吹き溜まりで、同類が傷を舐めあっているだけ。


 わざわざ大学で課外活動する以上、歴史的な大学横断組織がしっかりしているところに所属し、幹事や渉外なども進んで引き受け、年配のOBやOGの社会人とも交流し、広く縁故を得る、というのが、就職の王道。野球とか、サッカーとか、ラグビーとか、一般的なチームプレイの体育会系は、たとえ弱小でも、テニスやゴルフなどより、はるかに好印象。マスコミ志望なら、最初から、放送研、広告研などに入るのが当然。工学系なら、ソーラーカーや人力飛行機、ロボコンみたいなのもいいだろう。


 アルバイトも、そうだ。報酬が目当てなら、夜の仕事の方が高いに決まっている。だが、それで学業に差し支え、留年したのでは、元も子も無い。むしろ、たとえ報酬が安くても、それどころか、ボランティアや持ち出しでも、将来の仕事につながるアルバイトをすべきだ。たとえば、ミニコミ誌でも手伝えば、出版の基礎がわかる。選挙の手伝いをして政治家を目ざすのもいい。絵本の読み聞かせのボランティアで、自治体の人とつながりを作る手もある。


 大学は、自由だ。しかし、それは同時に、自己責任、ということでもある。なんでそんな妙な科目ばかり取っちゃったの、どうしてそんな変なサークルに入っちゃったの、と、就職の面接で聞かれて、自分に恥じるところがないのなら、それもまたいい。だが、だからといって、企業もまた、自分と同じような好評価をしてくれる、などとは思わない方がいい。もちろん企業の中にも理解のある人はいる。が、仕事として面接する以上、自分の個人的な理解ではなく、社会一般の「常識」で判断する。そのとき、君がはじかれてしまうようなことを大学でやるのなら、それはそれで自己責任だ。


 大学の自由は、好き勝手に、おもしろおかしく過ごしてよい、ということではない。むしろ、自己責任で、自分の将来の夢と生活に向けて最善の選択をしなければならない、という義務だ。四年間という時間、その間の高額の学費や生活費を、けして無駄にしてはならない。なにをするにも、目先の損得、好き嫌いではなく、それで将来、大きく元が取れるか、取り返せるのか、よく考えて、慎重に一歩を踏み出そう。


(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。

/正面二列目で待つ。姿勢よく、だれにでも笑顔で会釈。声はゆっくりしっかり、むしろ聴き役に。手帳とペンで、メモを取るふり。スマホより腕時計。ご近所でもあいさつ。そして、今日一日のことをよく書き留めておこう。いつか思い出すことが必要になる。/


 さあ始まりだ。試験のときは、あんなに気が張っていたのに、初日からもう気が重い? でも、入ったら終わり、じゃない。これからが始まりだ。もう夢じゃない。現実。だから、おそらく失望と幻滅だらけ。でも、それに文句をつけて拗ねる、なんて、幼稚なことはやってもムダ。だれも機嫌取りなんかしてくれない。もう大人なんだから、自分でどうにかしないと。


 最初でもっとも肝心なのは、朝、行って座って待つ場所。とりあえず、なんて、出入り口に近いところにいると、ずっと使いっ走りだぞ。むしろ、これからは毎日が抜き打ちの面接試験。まずは意欲を示すべく、正面二列目あたりへ。最前列だと挑戦的だと思われる。出る釘は打たれる、というのも、大人の常識。二番目あたりでちょうどいい。そこに座っていれば、ほっておいても、同じ程度に意欲をもって常識をわきまえた友人同僚ができる。恐ろしいことに、この友人や同僚こそが、これからの君の一生を決める。


 もちろん、第一印象が大切。ショーンKじゃないが、世の中、見た目が7割、声が3割。中身なんか、黙って立ってるだけなら、だれもわからないし、もともと人間、そんなに差があるものじゃない。運よく美男美女なら最高。そうでないとしても、姿勢が大切。猫背だったり、ポケットに片手を突っ込んでスマホ弄りだったり、かっこいいわけがない。まっすぐ立って、背筋を伸ばし、顔をあげ、いつでも声をかけてもらえるように、明るい笑顔で、とりあえずだれにでもニコッと会釈しておけ。どうせ右も左もわからない新人なんだから、ちょっとバカっぽいくらいでちょうどいい。


 次は、声だ。緊張して裏返ったり、早口になったりする必要はない。もう君は中に入ったのだ。余計な売り込みも不要。下手にウケを狙うと、場違いで確実に滑るぞ。それは、夜の歓迎会になってからでいい。どうせ形式だけの自己紹介なんだから、長話も迷惑。必要最小限のことを、ゆっくりしっかり語って、よろしくお願いします、と深く頭を下げるだけで十分。後は、暇を見て、向こうからいろいろ聞いてくる。そのときも、ペラペラ饒舌に話すことはない。新生活は、これからが長い。むしろ、笑顔でニコニコと、みんなの話を聴く側に回ろう。


 これまでスマホでなんでも済ましてきたかもしれないが、手帳とペンはあった方がいいぞ。会議でも打ち合わせでも、出るのに手ぶらというわけにはいくまい。よくわからなくても、ときどき話者とアイコンタクトを取って、話にうなずきながら、手帳になにか書いていれば、すごく積極的に参加しているように見える。どうせみんな、そんなものだ。腕時計も同じ。どうでもいい暇潰しでも、これまではスマホでニュースチェックだったかもしれないが、オリエントあたりのちょっと気の利いた機械式腕時計をじっと眺めている方が、どことなく忙しそうな、できるやつに見える。


 忘れていけないのが、あいさつ。どうせ誰が誰だかわからないんだから、だれにでもあいさつはしておけ。これから、いつ誰の世話になるか、わかったもんじゃない。そのとき、向こうは、けっこう君のことを覚えていたりするものだ。買い物でも、御近所でも、おはようございます、じゃ、おやすみなさい、と、一言、添えよう。なにかあったとき、ろくにあいさつもしない変な人です、となるか、とても感じのいい人ですよ、と言われるか、大きな違いだぞ。


 帰ったら、今日一日のことを、手帳かブログにでも、ちょっと長めに書いておこう。人生で一度きりの最初の日。この時の新鮮な気持を思い出す必要がある日が、いつかかならずやって来るから。


(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)

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