/味方につけたクレーム客は、来店頻度や顧客単価を引き上げるが、彼らの意見はかならずしも沈黙の一般顧客を代表しているわけではない。それどころか、彼らの意見に媚びて擦り寄る企業の姿は見苦しく、場末スナック化現象として、急速に一般顧客の支持を失う。/

 クレーム客は、対応次第で企業の強い味方になる、と言われている。彼らの意見を取り入れていくと、彼らは熱烈な顧客となって、来店頻度や顧客単価が上がり、売上げも増える。だが、店が理不尽なクレーム客に譲歩している姿は、他の客にとっては、かならずしも好感を持てるものではない。このため、そんな店には、その他のまともな顧客が寄りつかなくなる。場末スナック化、とでも呼ぶべき現象だ。

 ふつうの客は、商品が気に入らなくても、いちいちクレームなど言ったりはしない。ただ黙って買わずに店を出るだけ。どうしてもクレーム客の方が目立つが、このサイレント客の方が圧倒的に多い。「サイレント・マジョリティ」というものは、もともと政治の世界で発見された。やたら活発な「能動市民(シトワイヤン・アクチーフ)」たちの声に従っていると、選挙でいきなり落選するのだ。原因は、サイレント・マジョリティを無視したから。クレーマーは、もともと市民一般の意見を代表するようなものではなかったのだ。むしろ、「声なき声」こそ、政治家が耳を傾けるべきものだった。このことは、企業においても同じだ。

 しかし、場末スナック化現象は、近年、あちこちの企業や業界で見られる。毒気の抜けたテレビ、エロで売るマンガ雑誌、再演ばかりのミュージカル劇団など、とくにエンターテイメント系で顕著だ。ファッションブランドなども、コアなファンがいるところは、かえって危ない。十年もすると、そのコアなファンが、その業種の中に職を得るようになり、急進的に方針を歪曲していく。ところが、さらなる中への入りたがりの若者が、これを支持してしまう。かくして、売り手も、買い手も、作りたがりばかりで、どこにもふつうの顧客がいない、という奇妙な事態に陥る。しかし、全員が中に入れるわけではなく、夢のあきらめとともに、急激にファン顧客集団が瓦解していく。

 この問題をチェックするには、「白パンツ法」が有効だろう。これは、十数年前、ある老舗下着メーカーが市場調査で気づいたものだ。その調査によると、白パンツの顧客は少しも減っていないのだが、平均年齢が毎年1歳ずつ上がっていた。これは、つまり、若者がもはや白パンツを買っていないことを意味する。それで、この下着メーカーは、あわてて新商品開発に取り組み、海外ブランドに流れていた沈黙の若者たちを取り戻した。

 顧客の年齢が上昇していっているのであれば、その商品は場末スナック化している危険性が高い。連中は、店が荒れていても、商品が陳腐でも、それでいい、その方がくつろげていいのだ、などと言う。だが、より若い、より新しい顧客は、顔をしかめて、黙って店の前を通り過ぎ、別の店へと行ってしまう。常連の方が売上げに貢献してくれるのだから、これでいいのだ、などとやっていると、やがてその常連が一人欠け、二人欠け、店にはだれも来なくなる。

 企業というものは、新たに市場を創造する者であって、既存の顧客のケツを追いかけたりするものではない。ヘタに顧客たちの意見など取り入れないこと。ファンだなどいう主体性のない若者は会社に採用しないこと。むしろ、人に譲れない明確な商品ポリシーを持ち、それにのみ従って、たとえ来店頻度や顧客単価の高い顧客を振り落としても、その企業らしさを失わないこと。サイレント・マジョリティが企業に求めているのは、独自の理念を打ち立てて守ることであり、人に媚びることのない先見性だ。

/by Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka